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ときわミュージアム UBE Tokiwa Museum 緑と花と彫刻の博物館

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〈特別展〉向井良吉・柳原義達
現代彫刻の指標

著者名:澄川 喜一

  1945年、第二次世界大戦が我が国の敗戦で終結した。

  戦後の異常な日々が続いていたが、1951年には現代フランス美術展(サロン・ド・メ日本展)が開催された。

  1952年、私は東京芸術大学彫刻科に入学した。

  在学中、近代フランス造形の神様、ロダンに感激しつつも、新しく紹介されたイタリア現代彫刻のマリノ・マリーニたちに驚き、英国のヘンリー・ムーアたちにも眼を見張った。

  戦時中、途絶えていた世界の現代美術の大津波が次々と押し寄せてきた頃である。

  志を立て、芸大に入学はしたけれど、卒業後、果たして彫刻家として一人立ち出来るかどうか、心の隅に不安を抱きながら、自分の進むべき方向を模索していた。

  各地で展覧会が開かれ、彫刻界も活気が出はじめていた。

  卒業の頃だった。アンフォルメルの熱風が吹き荒れる等、美術の流れが錯綜混迷し、かなり見通しの悪い時代ではあったが、冷静に周辺をよく見廻すと、彫刻家として凛然として仕事を続けておられる真の芸術家の姿が、はっきりと見極められる時代でもあった。

 
  先ず、勉強の指標となる優れた先輩を探さねばならない。

  私共若者はすぐに彫刻家柳原先生と向井先生に注目した。

  それは見える形を、唯なぞるような観念的な彫刻ではなく、生命の真実に迫ろうとする芸術家の姿を見たからである。

 
  柳原先生は1948年、「高瀬さんの首」や、1950年の「犬の唄」等、既に立派な傑作を発表されていた。

   私は在学中、人体による塑像を中心に勉強していたが、作品を拝見し、同じ粘土を使いながら、こんなに力強く、心のこもった土づけが出来るものなのかと、自分の拙さを恥じたことを覚えている。

  また、1953年、先生43才の頃、サロン・ド・メ展でのフランス現代彫刻に衝撃を受けられ、本場に行き本ものに接してこようと留学された。真摯な芸術家の姿勢を知り、皆先生を尊敬した。

  4年間の滞仏の成果は、たくましく、心のこもった、強くたくみな土づけとなり、優れた作品を続々と創り出された。
 
   十数年前、向井先生を芸大にお迎えしたことがある。学生諸君に芸術家向井良吉と直接お話ができる機会を持たせていただくためである。

  その時、先生は、南太平洋のラバウルにおける過酷な戦争体験を静かに語って下さった。

  生と死の極限に至るお話だったが、どんな時も芸術家としての厳しさの中に、温かい眼差しを持たれている先生の優しいお人柄に接することが出来、感激した。

  芸術とは、人の生きざまであること、人生の流れを刻むこと、と結ばれた。

  先生の作品の魅力は、自然の中にあるかたちを、必要なものだけ取り出し、集積し、繊細な幻想を創出されたところにある。

  独創的な技法による名作を数多く発表されている。

  「蝋型鋳造のときの変形は、予想外の面白いかたちを生みだすこともあり、興味はつきません。鋳造の際のガス抜きのストローの存在や、"ゆばり"なども、ひとつの効果として生かすことも忘れません。作品創りは終始進行中に生きたかたちを記録することにあります」と云われている。

  「表面を無意識のうちに造りあげてしまうのではなく、唯、テクニックじゃないし、人間の魂から出るものだ」とも云われている。

  造形の奥深さを大切にする彫刻家である。

 
  具象彫刻とか抽象彫刻とよく云われるが、具象の柳原彫刻には抽象思考がたっぷりと含まれており、抽象の向井彫刻には具象思考が充分に内蔵されている。

  具象とか、抽象の領域を遙かに超えた彫刻家である両先生は、戦後の日本の現代彫刻の先頭に立たれ、常に私共の指標となられた真の彫刻家である。

  現代日本彫刻展は第19回を迎え、40周年の記念の年となった。

  今や、宇部の現代彫刻展は世界に誇れる野外展である。

  この展覧会の生みの親は、土方定一元神奈川県立鎌倉近代美術館長と、彫刻家・柳原義達、向井良吉の両先生である。

  日本の現代彫刻に対する優れた先見性によるご功績は計り知れない。

  また、この宇部の地の多くの方々のご支援により開催され続けている野外彫刻展から沢山の彫刻家が育って行った。(私も第1回目から出品させていただき育てていただいた一人である)

  これからも益々お元気で、後輩の彫刻家たちの指標でありつづけていただきたい。

  両先生は真の芸術家である。

  真の芸術家は、真の指導者なのである。

  宇部市制施行80周年・現代日本彫刻展40周年を記念する柳原・向井両先生の特別展のご盛会を心から祈念し、ご挨拶としたい。
(彫刻家)