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ときわミュージアム UBE Tokiwa Museum 緑と花と彫刻の博物館

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『彫刻の町宇部』
みるひとの心に自由な空間を与えてくれる宇部市の彫刻

著者名:弦田 平八郎


  野外における戦前の彫刻というと、わが国ではほとんどが個人の業績をたたえる記念像(銅像)でした。しかし第二次世界大戦後は、野外の彫刻に対する考え方や意義が大きく変ってきました。
  その変容の経緯は、奇しくも、ここ宇部市の戦後の歩みが如実に語ってくれます。
  わが国の敗戦直前、空襲で市街地のすべてを焼失してしまったといっていい宇部市は、他の都市に先駆けて、当時の常識としては考えも及ばない路巾50メートルの主要道路を造る都市再建に着手、これら道路に街路樹植栽をしはじめ、やがて衣食住欠乏にもかかわらず市民の共感を呼び起した市民ぐるみの緑化運動、花壇コンクールヘと発展させ、さらに緑と花の街に、銅像ではない、現代彫刻を結びつける運動を、他に先がけて推進したからです。
  戦後のわが国においてはじめて全国的規模で行われた宇部市野外彫刻展(1961年)は、常盤公園の自由ではつらつとした野外空間のなかに現代彫刻を解放し、その後の現代彫刻が大衆の前に大きく姿を表わす契機となったのでした。丁度20年前のことです。それはやがて、全国彫刻コンクール公募展(1963年)開催に導き、現代日本彫刻展(1965年から現在に至る)を隔年ごとにひらくことになりました。
  その間、わが国経済が急速に勢いをつけ、経済大国にのしあがっていきましたが、しかし同時にその高度成長政策のかげに、焼土と化さなかった地域の自然汚染や自然破壊が加速度的にはやまり、代りに、われわれに何の連想も与えない、画一化された、うっとうしいだけの都市景観がつくられ、近隣の社会生活が蔑ろにされ、人間疎外の感が深まり、ひろがっていったことは、まだ記憶に新しいものがあります。
  そのなかで宇部市の現代日本彫刻展は、歴代の星出寿雄、西田竹一、新田圭二各市長、それに現二木秀夫市長の積極的な取り組みによって、現代彫刻が、うっとうしくてやりきれない思いの都市や、人間疎外となった現代社会をいかに蘇生させるか、いい都市空間が社会生活にいかに精神性豊かなものを加えるかなど、現代彫刻の新たな社会的機能を探るとともに、環境と彫刻、都市空間と彫刻といったように、それらの関わり合いを大衆の視野のなかで強く追求する実績を重ねてきたのでした。
  宇部市の各地の公園や公共施設や街頭に約70点おかれている野外の彫刻は、このような歴史をもつ歩みのなかから、市民の浄財や団体の寄附によって、また作家の方の協力によって野外彫刻展のすぐれた作品が、清新な環境整備によって街のなかにおかれていったものなのです。
  これらのうちには、わが国近代彫刻の出発に当って重要な役割をもった明治・大正の彫刻家、荻原守衛、中原悌二郎、藤川勇造などの名作も含まれていますが、例えばむかし、大正期の小説家芥川龍之介が、中原悌二郎の「若きカフカス人」の頭像をみて、この若者はいまでも生きている、誰かこの若者に惚れる者はいないか、といったように、永遠の生命をたたえた作品が街なかでみられますし、現代作家の作品も、具象彫刻であれ抽象彫刻であれ、それぞれがおかれた環境に、それぞれ異った性格の清新な空間を出現させているものが多いのです。
  したがって街なかで出会うこれらの野外の彫刻は、必らずやみるひとびとにある動的なスケールを与える作品、つまり、みることにより触れることによって、われわれの精神をいまひとつ別の次元につれていってくれる作品たちである筈です。
  宇部市は、いや宇部の市民たちは、自分たちの社会生活を豊かにしようとする共同の精神を、このことによって強く表わしたのであったといっても過言ではないでしょう。
  1973年の石油ショックは、わが国の社会生活をいっそうシラケたものにしたものでしたが、しかしその反面、やっとこのことの大事さを喚起する警鐘となったのでした。石油ショック後、社会生活を根本から考えるアーバン・デザインにもとずく都市再計画が各地で見直されてきたのも、各地に彫刻のある街づくりが進められているのも、このためであるからこそといってよいでしょう。
  宇部市民は、多くの試練を早くから体験しながら、他の都市に先がけて、都市環境のなかの彫刻が果す役割の重要さを考え、実践してきました。しかし時代はむかしと違って刻一刻と新しい豊かな社会生活を志向して動いています。それだけに都市のなかにおける彫刻、都市のなかのすぐれた彫刻がもたらす社会的機能、そしてそれを媒体としてその地域に住む市民たちの精神性豊かな高まり、ありとあらゆることがいい方向に相乗作用する街づくりが大事なのです。
  ことし、彫刻を含めたわが国はじめての21世紀の都市デザインを考える全国シンポジウム「ひろばと緑と彫刻と」が宇部市で開催されたのは、このような宇部市にしてこそはじめてできたことであったと思います。
  さらにいまひとつ、彫刻はそれ自体必らず内に秘めたドラマをもっています。いい彫刻こそひとびとをより感動させるドラマを秘めています。いい彫刻をいい環境のもとにおいた新鮮な空間は、みるひとそのひとそのひとの心に、いっそう自由な空間をひろげてくれるものです。みなさんが、これだけ沢山ある宇部市内のすぐれた彫刻とじっくり対話されることを願っています。より自由な心がいっそう躍動するに違いありません。またそうすることによって、先人たちの労苦は報いられるでしょう。そしてみなさんは、さらにこれを後人たちにも伝えるべく、この上ともよい彫刻をえらんで街なかにおき、より豊かな街づくりをされるよう願って止みません。
  多くの彫刻家にとって宇部は、心のふるさとになっているに違いありません。宇部の彫刻もまた宇部のひとたちにとって心に秘める原風景のひとつになることでしょう。